「メンタル面が変わるだけで結果はずいぶん変わります。日本は優しすぎるんです。コートに立ったらアスリート! 戦争するような気持ちでいかないと海外では勝てないし、やってもいけません。
海外でただ1人代表でプレーしてる自分には、そんなメンタルのことや海外の経験をチームに落とし込んでいく役目があると思っています」

フランスで活動する土井レミイ杏利は年末から年始にかけた日本代表のヨーロッパ遠征に合流した中で、はっきり自分の立ち位置や役割を確信したようだ。

海外の経験を代表に注入!

 ポーランドでベラルーシに27ー31で敗れたあとバーレーンにも22ー37とよもやの大敗を喫した。

そしてアイスランドに移動しての2試合もアイスランドに25ー42と打ち砕かれ、若手主体のアイスランド選抜にも34ー39と敗れて4連敗と苦しみにあえいだ。

信太や東江ら主軸にケガ人が多く、ダグル・シグルドソン監督は「日本選手権が終わったばかりで各選手が疲労していたし、チームとしての練習もできずに臨んだので4試合とも厳しい戦いになった。それでも日本代表としてのスタートと位置づけているし、だんだんよくなっている手応えがある」と振り返った。

しかし、その一方で昨年1月のフランス世界選手権以来の代表戦となる土井はシビアな見方をつけ加えた。

もっと要求したい「プロ意識」

冒頭の言葉にあるように、同じ代表ユニフォームを身にまとうチームメイトに対しては、自らを鼓舞し、内からほとばしるような闘志やチームを盛り立てていこうとする気持ちの高まりをもっと要求したかった。
それは土井独特の表現で言うなら、すべての面で待望したい「プロ意識」だった。

ポーランドで2試合を戦ったあと、そんな想いをみんなに話すつもりだったが、同じことをダグル監督が全体ミーティングで強く指摘したので、あえてその言葉は胸にとどめた上できっぱりと腹を決めた。

「精神的なもので試合は大きく変わる。これから監督をフォローし、メンタル面の支えになってこのチームをリードしていこう」とーー。

戦術理解があってこそ!

そして、この先、さらに日本がレベルアップしていくための課題を口にした。以前から土井が帰国するたびに指摘している「対応力の乏しさ」だ。

「今回の海外マッチは監督のダグルが求めているシステムにうまくはまっていかなかった、という感じでしたね。

アイスランド戦など世界選手権で日本がフランスにやられたことの再現でした。両サイドにべったりとディフェンスがつかれたことで、45度がアウトを割ってきてもサイドDFが寄っていかないので、ぜんぜんサイドにチャンスボールが回ってきません。

バックとポストの動きでサイドDFを寄せざるを得ない状況を作りたかったけれど、それがうまくできなかったため、打たされた格好になったロング、ミドルシュートをGKに止められ、それで速攻を出されるという悪いパターンの繰り返しでした」

なかなかサイドにボールが回ってこない展開に、試合終盤あたりから上に浮いた土井がチャンスメイクする場面も見られた。

それでもいいリズムを呼び込むことができず、相手ゴールを一度も割ることができなかった土井に苛立ちの表情が見て取れた。

そんなことに起因しているのが「対応力と戦術理解の不足」というのが土井の考えだ。この点を聞くと、まさに立て板に水ように明快な言葉がポンポンと口をついて出た。

 「自分たちのプレーをしていれば勝てる、というのが日本スタイルですが、相手が変われば自分たちもそれに合わせなければいけないんです。

ヨーロッパは毎日違う練習をしてアイデアを進化させていっています。いつも同じ練習を繰り返している日本の選手は、練習慣れしているから頭を使わずにプレーすることになります。

海外の練習は量より質を重視しており、練習時間は1時間30分ぐらいと短いですが、頭をたくさん使うので、ある意味とてもハードです。また、海外ではベンチに座っている指導者などいません。みんながプロフェッショナル。負ければ仕事を失うという危機感を持っていますが、日本にはそれがありませんよね」

「日本人のポテンシャルは揃っていると思いますが、育っている環境が海外と違いすぎます。そこには戦術を詳しく知らないというウイークポイントがあるのは確かです。

よく海外選手との体格差を口にしますが、日本とフランスが同じ体格として、それぞれ2つのチームが勝負したら、戦術面ではるかに上回るフランスが勝つのは明白です。

その意味でいえば、まさに日本は発展途上の国。監督のダグルが構築するシステムを信じて、僕らが一歩ずつ積み重ねていくことです。時間はかかるけど、それだけ成長できる余地があるのは楽しいものです」

「これから日本がめざすべきハンドボールがなにかということについて、戦術が変化しなければいけないので、どれが正解とは言えませんが、やはり速いテンポのパス回しで粘って粘って確実に決めていく。DFもそう、やはり粘って粘って相手のOFを1つひとつつぶしていくことですよね」

海外挑戦こそ向上の道!

 そうして土井が結論づけるのが「海外でプレーする」ことの奨励だ。

「日本の選手は早く海外に出てほしいし、大学を出てからじゃ遅いぐらいです。夢を見てるんじゃなくて、さっさと行きなさいって言いたいです。

海外でプレーする選手が多くなれば日本のハンドボールは変わっていきます。うまくなりたい、強くなりたいと思えばメンタル、戦術とも高いレベルに身を置くのは当然のことでしょう」と声を大にした。

また、同じ左サイドのポジションでプレーすることになったレジェンド宮﨑大輔についてこう語った。

「大輔さんは、メンタル面でもとても頼りになるし、同じ左サイドにいてくれることが非常に心強いです。

ハンドボールに対してまっすぐな人です。ずっとセンターでプレーしてきたプライドもあるでしょうが、まだ伸びよう、もっと学ぼうとして私への質問もたくさんしてくれます。手助け求められるのは、とてもうれしいことだし、いるだけで頼りになるという感じです」

心強いレジェンド宮﨑の存在

日体大を卒業後、独力でフランスに渡って現在の地位を築いてきた土井にとってオリンピックへの憧れは人一倍強いものがある。

「とにかくオリンピックのメンバーに選ばれることに全力を尽くします。そして日本のレベルをもっともっと上げてメダルを狙えるぐらい強くしたいです。そうしたら日本のハンドボールは大きく変わるはず。そのために1つひとつ、自分ができることを積み重ねていきます」と締めくくった。

合言葉は「立川に集まろう!」--13日アリーナ立川立飛のコートで誰よりも光り輝いている土井レミイ杏利を見ない手はない。スタンドのファンが多ければ多いほど、熱ければ熱いほど土井の闘志がヒートアップする。ぜひ、本場の躍動をその目にしてほしい!