日本リーグ8年目にして記録達成

 1月14日の日本リーグ鹿児島大会で素晴らしい記録が誕生しました。HC名古屋のGK滝澤瞳子(愛称ドリ)選手が通算1000本FS(フィールドシュート)阻止を達成したのです。
 順天堂大からのキャリアスタートで日本リーグ8年目にしての達成、しかもチームのスタメンになったのが加入5年目という〝遅咲き〟ゆえ、この記録がいっそう価値あるものと言えるでしょう。

 「1年目はベンチアウトでユニフォームも着れず毎日仕事とハンドが辛くて辞めたかった。泣きながら家まで帰った。
 2〜4年目はベンチ入りしたけど、控えキーパー。ほぼ出番がなくて上手くなりたい、スタメンになりたい一心で練習した。でもどれだけ練習しても試合に出られない、チームも負け続ける、名古屋にいる意味を何回も考えた」と自身のFacebookで苦しかった頃を振り返ったドリさんです。

 「それでも5年目。初スタメンになった試合で勝った。まだやれる。がんばろうって思った」と試行錯誤を重ねながらも努力の甲斐あって明るい道が開き、1本1本の積み重ねがこうして輝かしい記録につながったのです。

大学からのキャリアスタート

そんな彼女のターニングポイントになったのが元日本代表GKとの出会いでした。西みどりさん(旧姓村山、元シャトレーゼ)からの個人指導でを受けたことで、その後の成長に弾みがつきました。
 西さんは豊田市ハンドボール協会のTHCアカデミーのGK担当で日本ハンドボール協会公認コーチ、そして立体作戦盤の発案者としても知られています。HC名古屋を応援していた濱岡真雄さんとともに、ドリさんと西さんとの間をつないだ経緯もあり、この記録達成はなによりもうれしいことでした。
 そんなドリさんに当時のことを振り返ってもらいました。

西みどりさん関連記事スポーツイベント・ハンドボール2016年11月号『どんな時でも…ハンドボール愛』より

元日本代表GKとの出会いが転機に

 「西さんとの出会いは2016年9月頃。当時の私は5年目にして初めてスタメンで試合に出た時期で、当たる日もあれば当たらない日もあり、今日は当たってくれ~と神頼みするくらい(笑)。特に当時はサイドシュートが苦手でいつもサイドで崩されてしまうGKでした。
 チームも初の試みのクラウドファンディングを行って「最下位脱出」を目標に変わりは始めている時期でした。そんな中、10月の岩手国体に行った時に、ホテルで昔のチームメイトや恩師と再開して楽しそうに話している選手たちを見て「あ〜、私はここにいる人たちが通ってきた道をすっ飛ばしてここにいるんだな〜」と漠然と感じました。私が中高とテニス部時代にこの人たちは今の技術を身に付けるために色々なことを経験して、ハンドボールを通して楽しいことも辛いことも乗り越えてきたのかと。
 それをマイナスに感じたわけではなく、だからこそ私は今から基礎をしっかり練習してレベルアップしなければいけない、中学からハンドボールを始めた同級生に比べて6年分の練習量の差があるんだから毎日同じようやっていてはいけない、このままではスタメンで通用するわけがないと感じていました。

 そんな折にFacebookを通じて西さんを紹介され、元日本代表のGKに教えていただけるチャンスなんてそうはないと思い、そののうちに西さんへメッセンジャーで「教えてください!」と直接連絡させていただきました。やり取りをして、チーム練習がない日に西さんが指導されている中学生の練習に参加させていただくことになりました」

新しい気づきの連続に感激

 「初めは元日本代表だし怖い人かもしれない…中学生と練習して自分の方が足引っ張ったらどうしよう…といろいろ考え緊張しながら向かいました。
 でも、そんな緊張は練習してすぐになくなりました。アップの方法、股関節の可動域を広げるストレッチ、アジリティー練習など本当に基本的な導入から重心の置き方、GKの位置どり、サイドシュート爪先の向き、セービングの肩甲骨・頭・目線の使い方など細部にわたってご指導いただき、こんなにも細かく教えていただいたことが初めての経験で「すべてが嬉しくて全部忘れたくない!!!」と休憩する度にメニューとポイントをノートに書きました。
 技術面で一番の不安要素だったサイドシュートはチームに帰って1人で練習できるか不安だったので動画を撮って分からなくなったら見返せるようにと色々な角度から撮りました。

 「股関節をしっかりほぐしたから、いま足が勝手に出てきたよね?」、「ほら、いまのは頭を持っていけてる、いまのは目線が向いてないね」と西さんのご指導は新しい気付きばかりで何回も練習するなかで自分でも良し悪しが判断できるようになってきました。

 それからは毎日の練習で教えていただいた動作をアップに加えたり、プレー中の重心の置き方をつねに考えたり、空いてる時間は1人でゴールに向かって反動なし1歩でゴールコーナーに跳ぶ練習をしました。
 サイドシュートも練習していくうちに周りから良くなったと言われ、試合で取れなかった時は西さんにメールで分からないことを質問したこともありました。時間を使って試合動画まで見ていただき気になった点をいつもていねいにメールでご指導いただきました。

 大学の頃から指導者がいなかったので毎日の練習でノートを見返して同じことを繰り返し意識して練習することは特に苦ではありませんでした。
 順天堂大学の2、3年の時に日体大に練習しに行く機会があり、高木(山根)エレナ選手をみて「すごい!うまい!かっこいい!」と後ろで観察してメモを取りまくり、大学に持ち帰って次に誰かと一緒に練習できる時まではこれをやる!と、1年くらいずっと同じことをやり続けてたような生活だったので。高木選手がその頃の私を覚えているかは分かりませんが。しかも年上だと思っていたら1個下に教わっていました(笑)。

身にしみた基本の大切さ

 GKは特殊なポジションなのでGKコーチがいていつでも教えてもらえる環境はほとんどないと思います。最初はそれが不満でなんで上手くなりたいのにGKは教えてもらえないの?とひがむこともありました。たぶん何をやればいいか分からなかったからなのかなと、いまになって思います。どんな練習の日も自分で意識してやらなければいけないことは沢山あって、1つクリアしてもまだまだ課題があって、試合を重ねる度に新しい課題が出て。
 そんな毎日の現役生活で西さんに教えていただいたことは、どんな時もできていなければいけない基本、いまでも1日1回は「いま止められなかったのは重心がちゃんと取れてなかったな~」などふと反省が出るくらいです。基本を教えていただいたからこそ毎日の練習で自ら試行錯誤できるようになりました。

まだある成長する伸びしろ

 西さんと出会わなければ基本の「基」が分からないまま時間が過ぎて、成長につながるポイントを見逃していました。もう無理だ、やっぱり大学からの日本リーガーは通用しないと8年も続ける前に諦めてたかもしれません。素晴らしいGKの大先輩と出会えたことは私にとって本当にラッキーなことでした。西さんには感謝しかありません。

 1000本セーブを達成したいまも、まだまだハンドボール歴では11年、今年のルーキーたちと同期くらい(笑)。成長する伸びしろだけはあると思っているので毎日少しずつでも成長を続けていけるように自分で考えて試しながら練習していきます。始めた時期が遅くても、出身校が強くなくても、全国大会を経験したことがなくてもできるんだよとハンドボールに真剣に取り組んでいる学生たちに伝えたいです」

「もっと飛躍できる力を持っている!」

 そんなドリさんのがんばりを人一倍喜んでいる西さんからもメッセージをいただきました。

「瀧澤さんとの出会いは確か、HC名古屋を応援していた濱岡さんが「HC名古屋のGKがサイドシュートがとれなくて」という話があって、「依頼をしてくれれば教えることは可能ですよ」と答えたことから始まったと思います。
 その後、瀧澤さんから私宛にメッセージが届き、瀧澤さんの質問に答えたり、私が外部コーチをしている中学校の練習に来てもらい一緒にトレーニングをしました。
 瀧澤さんのキーピングの印象は身長もあり、手足も長いのにそれを上手く使えていないなという感じでした。ひと言で言えば固いというイメージです。
 質問で多かったのがサイドシュートでした。一緒にトレーニングした時もサイドの位置どりを動画撮影したりと、とても研究熱心でした。
 その時のアドバイスが彼女の変化のきっかけになったのなら、とても嬉しいです。ただ、それはちょっとしたきっかけで、真面目ながんばり屋さんが、自分自身と向きあってコツコツ励んで来たことが 彼女を成功させた一番大きい要因だと思います。
 滝澤さんはもっと飛躍できる力を持っていると思います。これからももっと高みをめざしてがんばって欲しいと思っています」

2017年11月の吉川GKクリニックでの西さん

熱戦たけなわの第43回日本リーグでHC名古屋は1月25日終了現在、2勝4敗でブラックブルズ、オムロンと並んで5位を併走しており、これから3月1日までのレギュラーシーズン終了まで激しい順位争いが繰り広げられる。チームが掲げるプレーオフ進出の目標へ、名古屋とドリさんの熱きチャレンジが終盤の日本リーグを盛り上げるに違いない。
※文中の写真はHC名古屋Facebookページより。トップ画像は毎試合応援に駆けつけたお母さんとの嬉しいツーショット。