熊本インターハイで夏舞台デビュー
8月3日に熊本インターハイが開幕、翌4日から高校日本一をめざす熱い戦いがスタートする。山鹿市を中心とする夏舞台で熱戦の行方に興味が尽きないが、今回が高校デビューとなる清黒瞳太(浦和学院高)選手と荒井美咲(埼玉栄高)選手という、いずれも埼玉・三郷北中出身のルーキーコンビにスポットライトを当ててみた。
昨年2人は日本ハンドボール協会肝いりのエリート育成、強化システムであるNTA(ナショナルトレーニングアカデミー)に選出されてデンマーク遠征、U-16代表で日韓スポーツ交流に出場するなど、高校1年生主体の中で数少ない中学生選手として貴重な体験を積んだ。
エリート育成路線で育まれた逸材
アンダーカテゴリー強化担当理事の立場から両選手を近くで見てきた河上千秋さんは、清黒選手について「中学時代からそのプレーの鋭さ、卓越したセンスは折り紙付きですが、高校生になって新たな環境に身を置くことにより、技術面より精神面でたくましさが加わり、大人の対応を身につけてきたように感じます。
アカデミー期間中には(浦和学院高の先輩になる)土井レミイ杏利選手らにさまざまなアドバイスを受けたこともいい刺激になってるのでは」と語り、
荒井選手に関しても「アカデミーでも今や中心選手となる立ち位置にいます。シャープなプレーやセンスは健在で、今後はさらにフィジカルを鍛えて力強さや相手に与える強烈なインパクトのあるプレーが確立できれば、ユースやその上のカテゴリーからは引っ張りダコになると思います。
また高校生になって、いろいろな面で自立し、日本を背負うアスリートとしての自覚が強くなれば自ずとその価値は高まると思います」と大いなる期待を込めた。
陸上から転向して才能開花
清黒選手が競技をスタートしたのは三郷北中に入学してすぐ。彦郷(ひこさと)小時代は陸上の走り幅跳びで市内トップを争う存在だった。友だちから誘われた部活体験がハンドボールとめぐり合うきっかけになった。
「1日でいいから来てと言われて体験に行ったんです。誘いがなければ陸上を続けていたでしょう」と振り返る。
1年生ながら170㎝近い身長に加えて貴重な左腕。さらに陸上で鍛えた脚力と類まれな運動能力に目を見張った細津誠監督は、すぐさま彼をレギュラーに抜擢して試合に使い続けた。
「最初はハンドボールのルールもボールのつかみ方も、どこを攻めているかもわからず、フォームもぐちゃぐちゃで、ただシュートを打つだけでした。でも、走り幅跳びをやっていたので走りとジャンプは得意だったし、自分に合っているスポーツだなって思いました」と3年前を振り返った清黒選手。
そうして入学から3ヵ月たらずの県中学校総体で、得点源だった同じ左腕のキャプテンが試合中に腕を骨折するアクシデントがあり、そんな中でひたすらシュートを打ち続け、終わってみれば10数点をマークして周囲をアッと言わせた。
その後は河上さん言葉どおり、すくすくと才能を伸ばして日本協会のエリート育成コースに引き上げられ、中学界のトップゾーンで活躍した。
「3年生になってからデンマークや韓国に遠征したりと、普通の人にはできない体験ができ、海外を意識するようになりました。監督のネメシュ・ローランドさんから『海外で通用するプレーをしないと意味がない』と言われたのが印象に残っています。
最初は安平(光佑、ユース代表=日体大1年)さんみたいになりたいと思いましたが、同じ左利きの徳田さん(新之介、日本代表=豊田合成)が身長は低い(178㎝)のに、相手の裏を速いフェイントで抜くプレーが素晴らしいので、目標にしてがんばりたいです」とめざしたい将来像を口にした。
三郷出身の先輩に強いあこがれ
それともう1人、忘れてならないのが三郷北中出身の日本代表・吉野樹選手(トヨタ車体)だ。
「地元から同じハンドボール競技で活躍しているので、自分もそうなりたいと思っています。今年3月のプレーオフ最終日を見に行きました。樹先輩が一番輝いていたし、チームにも貢献していました。
表彰式でMVPが発表された時、絶対に樹先輩が選ばれると思っていたので、やった〜ってなりました」と目を輝かせた。
インターハイの実戦デビューを目前にした今の心境を聞いてみると
「高校に入ってから45°とサイドをやってきましたが、今はサイドの先輩がケガしたこでサイドを重点的にやってます。
45°とはシュートの投げ方、守り方、速攻の走り方とかがわからなかったけど、先輩らに教えてもらってフォームなど身についてきたかなという段階です。
インターハイは県予選とはレベルが違うし、ダメだったところを直し、GKもレベルが高いと思うのでシュートのレパートリーを増やし、どんなGKでも対応できるようになりたいです」
中学3年間で大きく飛躍!
荒井選手は小学生になってすぐ三郷ハンドボールクラブ(通称ミサハン)でプレーを始め、6年生最後の夏の全国小学生大会で日本一に輝いた。
小柄ながら左バックでチームの主軸となって優勝に貢献した。ポイントゲッターではなかったが、三郷北中に入って身長(現在166㎝)が伸び、持ち前のパスセンスに多彩なシュート力が兼備されるにつれて一躍急浮上した。
「小学生時代から比べて自分でも成長したなと感じます。まさかU–16代表に選ばれるとは思っていなかったし、ハンドボールをやっててよかったと思いました。
伸びたプレーというのはロング、ミドル、クイックなどシュートの技術。一番影響を受けたのが姉の桃花(東女体大1年)で、中学、高校と姉のプレーを見てきて、うまいと思って目標にしていました。家でも部活の話などして、わからないところを教えてくれたりと、ハンドボールに関しては優しい姉でした(笑)。
NTAやU–16では先輩がすごくて左サイドをやりましたが、スピードあるプレーや動きも近くで見られて勉強になったし、日韓戦の2試合とも1点取れたので自信になりました」
清黒選手と同じく未来像について聞いてみると、
「ポジションは小学校からバックをやってきたので、これから先もバックをやりたいと思います。自分も活かしながら、周りも活かせる選手になりたいですね。
まだ夢とかあこがれの選手はいません。全国でいうなら安平選手のプレー見て、ノールックパスなどいいなって練習してました。でも試合になると怖くてできません。どうしても失敗を恐れちゃいますね」
日本の誇りと責任を自覚
そして話を「代表」に向けると、がぜん目の輝きを増してきた。
「日の丸のユニフォームは日本代表としての責任があるし、当たり前のことを当たり前のようにできるような選手になりたいです。悪いことやったら、なんでと言われてしまうし、日本の誇りと責任を持ちたいです。
U–16で韓国とやった時、DFの当たりはケタ外れで押すのが当たり前。ずいぶん中学とは違うな〜って感じました。ユース代表になったら、アジアとか世界を相手に戦うのでフットワークをもっと速くして、細い体に肉をつけなければと思っています。たくさん食べてるんですが…」
インターハイデビュー直前の心境を聞くと、
「DFに当たられて弱いシュートを打つケースが多いので、当たり負けしない身体作り、とくに体幹をもっと鍛えなければと思っています。インターハイは強い相手ばかり出てくるので圧倒されないよう、自分のプレーで少しでも長く先輩と一緒に夏を楽しみたいと思います」
貪欲なチャレンジ精神で進化
そんな2人を同時に指導した三郷北中・細津監督は「歩幅の調整、大股でのアウト割りなどが清黒の長所だし、荒井はマイボールにする、マイボールになるという場面でのカンの良さは抜群。相手のプレーを読む力もすごい。後方DFからのパスを受けてシュートチャンスに持ち込む直感的な動きにも目を見張らされます。
2人とも柔軟性があり、学ぶ気持ちや努力も人一倍。なによりチャレンジする気持ちの素晴らしさが共通しています。NTAやU-16など高いレベルの環境に置かれれば、そこでがんばることでさらに伸びるでしょうし、そんな時代に生まれた運があるとも思います。
高いレベルでやっていくことで壁にもぶつかるでしょうが、そのたびに変化、変革していけると確信しています。後輩たちがあこがれる人になってほしいですね」
熱戦カウントダウン!
浦和学院高・岩本明監督は「心配した(2号から3号となった)ボールの違いも苦にせず、高校のプレーにもすんなりなじんでくれています。
インターハイ予選はケガした3年生に代わって右サイドを任せましたが、本番は陣容が整うのでバックのサブ的な起用になるでしょう。これからたくさんの経験を積み、チームの中軸、そして年代を代表する選手に育って大活躍してほしいと期待しています」と目を細めた。
埼玉栄高・大高正人監督も「フィジカルつけながら柔らかさとキレをキープさせて成長させたいです。
技術的な良さもあるが、ポジティブさ、うまくなりたい、強くなりたいという思いがすごく強く、向上心と勉強熱心さ、ものおじしないところも長所だと思います。こういう舞台でも、こう思うとはっきり言うし、吸収力もある。なにがあっても諦めないところも素晴らしい」とさらなる飛躍を期待した。
あとは若さにものをいわせてしゃにむに突き進むのみだ。「三郷の先輩たちに続けの思いで高みをめざしてがんばります」と、あくなき前進を誓った2人に幸あれ! まずは熱戦がスタートする4日からの躍動ぶりをネットライブで堪能したい。
※熊本インターハイ ライブ配信↓
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