「チャンスがあったらいくよ~!」
「パスしたら次を見て~!」
「DF当たるよ~!」

ホイッスルを手にした濱口みゆきコーチの声が何度も体育館中に響き、コートサイドからは濱口靖監督の熱い視線が注がれていました。

そう、久しぶりの「ハンドボール愛ジャーナル」は鳥取県境港市で活動する小学生チーム「境港マリンバード」の紹介です。

突然の練習見学が実現!

11月14日までの大阪インカレを観戦後、初めて山陰地方に足を伸ばそうと鳥取、島根に向けて走る車中からマリンバード監督の濱口さんに「ご無沙汰です。境港の近くまで来ているので連絡しました」とメッセージを送りました。

濱口さん(境高→大体大)は、彼が大崎電気オーソルの主戦GKとして活躍していた時代によく大会取材をし、全国の小学生指導者たちが集まるU-12指導者研修会で一緒になったこともあって懐かしさが募ったからです。

突然のメッセージにもかかわらず、すぐにも「練習が終わったら食事しましょう」との返信があり、うれしくも練習見学が実現しました。

2012年の全国小学生大会でマリンバードの試合を見たことがあり、その時は男女ともに勝機を見出せずに予選リーグ敗退という結果でした。

結成間もないマリンバードにとっては全国の洗礼を受けた感じでしたが、それでも濱口さんは私の取材に「これでもパス、キャッチもままならかった1年前から随分マシになりました。鳥取は後進県と呼ばれていますが、きちんと教えれば必ずいい選手が育つはずです」と答えてくれ、それから7年たったいま、チームがどんな成長を見せているかとても楽しみでした。

「おっ!なかなかやるな~!!」

そんな思いで練習中の選手たちに目をやると、スピーディな展開からポストへのノールックパスなど素晴らしいプレーの連続に思わず「ナイスプレー!」と手を叩かずにはいられませんでした。とにかくミスの少ないプレーが次々と続くので「このチーム、なかなかやるわい」と感心しました。

そばにいた保護者会長の遠藤美一さんに話を聞いたところ、「男子は今年の全国大会で1回戦敗退でしたが、東海スクール(愛知)さんと延長(18ー22で惜敗)までいき、女子も6年生がいない5年生主体のチームながら先日(10月27、28日)の中国大会で優勝した総社クラブ(岡山)さんと2回戦であたり、惜しくも3点差(10-13)で負けたんです。全国大会常連のチーム相手によく健闘しくれたと思っています」とのこと。

県内でも米子市や鳥取市に小学生クラブが誕生し、県予選を経ての全国大会に7年連続出場するなど実績を積み上げてきたマリンバードです。

結成8年目で着実に成長!

ここからは楽しく食事をしながら濱口さんの話を聞いてみました。

「子どももそうですが、親たちも全国大会に場慣れしてきた感じがします」と濱口さん。

そして「全国的に目立つ成績は残していませんが、鳥取ハンドボールのポテンシャルは決して低くないと思っているんですよ」と言葉を続け、「僕以外にも日本リーグや日本代表で活躍した鳥取出身の選手は結構いるんです」と言い、高智海吏選手や山口文子さんの名をあげました。

高智選手は言わずと知れたトヨタ車体のサウスポーヒッターで日本代表として世界やアジアを舞台で戦い、山口さんもオムロンの守護神として何度も日本リーグMVPやベストセブン輝くなど日本女子を代表する名GKでした。そのほか日新製鋼所属で日本リーグに出場し、現在も広島でジュニアチームの指導に励む林原洋仁さんや楠原誠吾さんらの名も出ました。

未来のホープが次々と

ちなみに現マリンバード女子の山口涼乃選手(境小5年)は前述の山口さんの弟と高智選手の姉が両親という、まさにハンドボーラーのDNAを受け継ぐ未来のホープです。

さらに濱口さんと、コザ高(沖縄)→大体大時代に名選手で鳴らしたみゆきコーチの血を引く長女まお選手(大阪・四天王寺高1年・172㎝)がU-16日本代表に名を連ね、今夏の日韓ジュニア交流やNTA(ナショナルトレーニングアカデミー)のデンマーク遠征を経験。マリンバード男子キャプテンの大選手(余子小6年)、次女りお選手(同4年)も、それぞれ高い能力を感じさせました。

「なにしろ”母の才能"と"父の努力を惜しまない心"がルーツですから将来有望ですよ」と笑い飛ばした濱口さんです。

また、日本ユース代表候補の左腕・武良悠希選手(福井・北陸高2年)やU -13センタートレーニングに参加した高梨輝来選手(境二中1年)など将来性豊かな選手が次々とマリンバードから巣立っています。

「チーム結成するにあたり、鳥取の未来の子どもたちの受け皿となリたいという思いが一番でした。
僕よりいい指導者は全国にヤマほどいます。上のチームに進んで僕よりいい指導を受けた子たちが将来鳥取に戻り、さらに僕よりいい指導をしてくれたら、そこで僕の役目が終わると思っているんです」

また練習の終わり頃からマリンバードを巣立った中学生選手たちも集まってきました。この日は社会人チームの練習日でもあり、やりたい人たちみんなでハンドボールの場を共有しようということでした。

そうして濱口さんが中学生の学外コーチをしたり、みゆきさんが社会人チームの現役でプレーしながら県内レベルが少しずつ上がってきたのも見逃せません。

総社・山上さんとの約束果たす

マリンバード結成当初、総社クラブ(岡山)の山上正秀監督が「チームの立ち上げ時は大変だから」と練習試合、それも岡山からの遠征を快諾してくれたことが忘れられない思い出と言います。

そのとき、男子が10分ゲームで1ー17、女子もスタートから大差をつけられたマリンバードでしたが「試合の最初から最後まで全力で戦ってくれたことがとても嬉しかったですね」と濱口さん。

岡山に帰る山上さんと交わした約束が「いつか全国か中国大会の決勝で試合をしよう」でした。

そして、今年10月の島根での中国大会男子決勝で両チームが対戦。7年半ぶりの約束が実現したのです。
試合は前後半が終わって11ー11のイーブンで7mスローコンテスト(7mTC)にもつれ込みました。

濱口さんは「トーナメントで勝ち抜きを決めるための7mTCであり、決勝はその必要がないから両者優勝にしてほしい」と要望したものの、「大会ルールだから」とのレフェリー判断で押し切られ、結果は12ー13で涙を飲んだマリンバードでした。

それでも着実に地力を増しているのは、ここ数年の戦績でも明らかだし、この日の練習でもはっきり見てとれました。

練習の質向上が目標

「練習の質を上げよう」が毎回の目標と言います。

山陰地方に小学生チームが少ない地理的ハンデもあり県外遠征、とくに開会式や閉会式のある大会に出かける機会は極めて少ないのが現状だからです。「やってみないとわからないのが小学生チーム。ましてや遠征も限られているので、普段の練習を大切にするしか上達の道はありませんからね」と濱口さん。

ちなみに取材した翌日は、その数少ない和歌山県への遠征で、早朝4時30分集合のバスに乗り込んだマリンバードセブンです。

みんなみんなガンバレ!

そんな日頃の活動を支えるのが保護者たちの協力体制。

例えば町内会の廃品回収で各家庭や知り合いの会社から出るカンや新聞、ダンボールをまとめて業者に持ち込み、年間で50万円ほどの活動資金をプールするとか。
すべてがマリンバードの子どもたちの今と未来のために、という視点に立っての活動なのです。

頼もしい限りの母親パワー

最後に、男女キャプテンとみゆきコーチからの言葉で締めくくってもらいました。

男子キャプテン・濱口大くん
「マリンバードが一番誇れるものは楽しさ、声、スピード。誰でも得点チャンスがあるところがハンドボールの好きなところです。
将来の夢はハンドボールのプロ選手になること! がんばります」

女子キャプテン・山口涼乃ちゃん
「元気が一番の誇りです。ハンドボールで好きなのは、うまくいかない時もあるけど、うまくいった時みんなで喜べるところ。将来もハンドボール選手でがんばりたいです」

濱口みゆきコーチ
「マリンバードはまだまだ発展途上のチーム、努力を惜しまない子が多くて切磋琢磨できるチームと思っています。
これから自分で考えて行動(プレー)でき、つねににチャレンジ精神のあるチームに育てていきたいです」

そんな意欲的な言葉の数々に、これからもマリンバードを注目、応援したいなという思いが高まりました。
今度は大会での躍動を目にしたいと思います。みんなみんながんばれ!!!