彗星JAPANの起爆剤へ膨らむ期待

ドイツ代表を招いた6月の「JAPANカップ2018」から本格的に日本代表デビューした吉野樹選手(トヨタ車体)。
その後、日韓代表定期戦、ブラジル代表戦と実戦キャリアを積み、このほどドイツでブンデスリーガの上位クラスとの3試合を経て現在ジャカルタで開催中のアジア競技大会に臨んだ。
昨年の日本リーグで最優秀新人賞とプレーオフで殊勲選手賞を獲得するなど、いままさにブレイク中の若きホープをクローズアップしてみた。

JAPANカップで本格代表デビュー

 JAPANカップを前にした日本代表のダグル・シグルドソン監督がこんなことを話してくれた。
「吉野が日本代表に入ってきてくれてうれしいよ。彼は今、いいステップを踏んでいる。これから自信をつけてくるだろうし、もっとディフェンスに集中していけば完成された選手に育つはず。
将来は日本のプレーメーカーに?  うん、その可能性はあると思っていいよ」と笑顔を返してくれた。

そして迎えたJAPANカップ。吉野選手は6月13日の徳島で2得点、16日の東京では日本選手最多の5得点を叩き出し、大勢のファンの前でインパクトあふれるプレーを披露した。
とくに徳島での初ゴールは印象深かった。後半開始6分、思い切って腕を振ったシュートがゴール右下コーナーに決まったものだ。

恩師の想い込めた初ゴール!

「得点するならあのシュートと決めていました」という一投。それは彼が巣立った小学生チーム「三郷HC(通称ミサハン)」の半村茂夫監督から伝授されたシュートだった。

「最初のシュートは絶対に流しに打っていけ」が半村さんが基本にしている教えであり、その言葉が頭をよぎったという。
「僕のベースは流しのシュートだと思っているし、半村先生の想いがこもっていたと言っていいです」と胸の内を明かしてくれた。

続く東京体育館は5000人もの大観衆に囲まれた中で、ややもすると緊張感に押しつぶされそうになったが、スタンドの一角に陣取っていたミサハンの後輩たちの応援に勇気づけられた。
選手入場の時だった。吉野選手が登場すると選手や保護者らミサハンファミリーが手にした紫カラーのユニフォームが力いっぱい振られた。菊池久美子コーチの発案だったという。

「三郷の子どもたちがユニフォームを振ってくれたのはすぐわかりました。すごい人数でとてもうれしかったですね。かなり緊張していたので力になりました」とニッコリ。
それでグーンとテンションが上がり、見事なパフォーマンスで「吉野ここにあり!」を大アピールした。

「もっともっとがんばりたい!」

この日の活躍もあり東京体育館のミックスゾーンで何人もの記者からインタビューを受けた。

ーーダグル監督からどんな言葉をかけられた?
「初招集だし、とにかく前を狙え、強く行け、気持ちだと言われました。そういうのはとても大事だと思っていたので、戦う姿勢で思い切り前を狙っていきました」

ーー実際に大型のドイツ選手と対戦した感想は?
「日本にいると外国の大きな選手と対戦できる機会は少ないので、こうやって2m、100㎏クラスの相手とやれるのは僕らにとってプラスだし、そういう相手にフリースローを取ったりと、こんな小さな身体(183㎝)でも戦えるということも分かった試合だと思います。
ドイツということだけで名前負けする部分があったけど、こうして戦い方とか、自分でも通用する部分があるんだなという手応えをつかめたのはいい経験になりました」

ーーサイドディフェンスでウーヴェ(ゲンスハイマー)とマッチアップした感想は?
「はい、すごく感動しました。サッカーならメッシュみないなスーパースターが目の前にいるって思うとゾクゾクしたし、迫力の違いを感じました」

ーー2020年の東京オリンピックを視野に入れながら今後どのように自分のプレーを伸ばしていきたいか?
「もっとポストを使うプレーだったり、プレーのバリエーションを増やす必要があると思うし、そんなテーマを持って国内の試合に臨んでいきたいですね。そして、こういう(海外との)試合でそれが通用するのか、しないのかを判断して成長していければと思います。
打つだけじゃなく、間を狙いにいってとか、2人引き付けてずらしたりとか、サイドを活かしたりとか、自分を活かすためには、他を活かすプレーを身につけていかなければとも思っています」

ーーオフェンスシステムを組み立てるプレーも意識しているか?
「はい、エースポジション(LB)だけというのはダメなんで、エースからセンター(CB)にポジションチェンジしていって展開していくというプレーもどんどん増えると思うし、ゲームを作ってもらうだけじゃなく、僕らも作れるようにならないとって考えています」

ーー2年前の世界学生選手権からGKコーチとして(吉野選手を)近くで見ている北林健治さんが、今日の試合は溜めるシュートばかりではなく、クイックでひっぱりの、とてもいいシュートを打ったと言っていたよ。
「そうでしたか。(大型のドイツ代表に対して)1、2、3のステップを使うと全く通用しないので、途中の歩数を減らしてタイミングの違うシュートを狙っていきました。
まず1にシュート、2でフェイント、3がパスというのが僕のプレーです。
シュートで枝を上げさせ、思い切ってフェイントして打ったり一歩で打つシュートも代表合宿で練習中です」

ーー東京大会はLBのキャプテン信太選手がケガしたこともあって先発出場だった。
「はい、信太さんの欠場は前向きにとらえて、このチャンスを生かしたいと思いました。満員の観衆の中でスタートからプレーできてうれしかったです。とにかく初めてのことだったし、あとはやるだけです」

--これで日本代表のレールに乗ったのでは?
「いえ、自分は落とされるかどうか、すれすれのラインにいると思うんで、ずっとアピールし続けなきゃいけないなと思っています。とにかく自分の良さを活かせるようにしていきたいです。
また、代表のいろいろな選手と合わせて、コミュニケーションをとっていければ、自分でもっと生きるかなと思っているし、さらにがんばりたいと思います」

2選手からスペシャルコメント!

このあと2人の選手からスペシャルコメントをもらった。
今後も彗星JAPANで数多くオフェンスのコンビを組むであろう東江雄斗選手と、もう1人はドイツのゴールマウスに立って日本を苦しめたGKのシルヴィオ・ハイネフェッター選手だ。

「どの技術においてもハイレベルで、すごくいいプレーヤーです。同じチーム、センターをやっていてとても合わせやすし、大学時代からわかっているのでコンビネーションもスムーズです。自分が強く攻めに行きたいと思った時にDF引き付けてくれます。
まだ公式戦慣れしていないのでメンタル面など不安もあるでしょうが、僕がやってもらってきたことを彼にもしていきたいです。堂々と持ち味発揮をと思っているし、こちらも負けないようがんばりますよ」と東江選手。

そして、ハイネフェッター選手は「31番(吉野選手の背番号)のプレー? 覚えているよ。小さいけどダイナミックで素早いし、ジャンプ力もあって空中で溜めたシュートもとてもよかった。いま何才?(その時は23才と聞いて)すごくいいタレントだよ。33番(東江選手の背番号)と2人はとてもいいプレーをしてたね。来年の世界選手権はドイツだし、またで会えるのを楽しみにしているよ」と軽くウインクして微笑んた。

初のタイトルマッチに高まる意欲

アジア大会を前にしたドイツ遠征では“世界の最高峰”と言われるブンデスリーガのトップチームと数試合対戦した。
「向こうは天気がからっとしていて睡眠も充分とれたし、すごくいい環境でプレーできました。
もちろんシーズン前ということもあったでしょうが、雲の上の存在と思った相手といい勝負ができたかなと思っています。
日本人のスピードをいやがっていたので、そのへんを極めていけばもっと得点が増えるだろうし、ディフェンスも受け身にならずにガンガンいけばフィジカル負けしないと感じました。攻撃面の突破口になる感覚もつかめたかなというところです」と順調なステップを踏んでいる手応えを口にした。

このアジア大会は彼にとって初めて国を背負って戦うタイトルマッチとなる。
「アジアのレベルがどのぐらいなものかも含めて未知の世界になりますが、思い切りやって1つでも多く吸収して、この大会で得たものを次につなげたいですね。そのためにもメダルを取りたいです」としっかり前を向いた。

初戦のパキスタン戦はスタートから15分ほどの出場にとどまったが、立ち上がりに3本のシュートを決めてチームに弾みをつける原動力になった。
17日の韓国戦からメインラウンドに入ると、すべてがメダルに直結する大事な試合が続く。いずれもこの半年余りでは苦戦を強いられた相手ばかりだが、吉野選手の右腕が炸裂すれば一気にチームが勢いづくはず。なんとしてもアジアのトップゾーン復活へ、彗星JAPANのホープに大暴れを期待したいものだ