球春スローオフ! 第41回春の高校センバツ開幕まであと1週間を切った。 HANDBALL@STATIONの看板「ハンドボール愛ジャーナル」では前回に引き続いて2018春のセンバツ注目チーム!ー第2弾として公立№1進学校として王国・愛知の頂点に立った旭丘高女子ハンドボール部にスポットライトをあてた(※動画及び写真はすべて旭丘高ハンドボール部保護者会提供)。
旭丘が強豪・名経大市邨を破って愛知優勝を飾ったラストシーン
公立№1進学校が愛知県制覇!
1月14日に愛知県体育館で行われた高校選抜大会の愛知県予選最終日。優勝をかけた女子決勝リーグ最終戦は異様な雰囲気に包まれていた。
優勝候補の最右翼と目されていた名経大市邨(以下・市邨)が、全国的にはまったく無名の旭丘に食い下がられ、タイムアップの瞬間までどちらが勝つか予断を許さぬ大熱戦が展開されていたのだ。
前評判は3回の全国優勝をはじめ、昨秋の愛媛国体優勝の主体チームを形成するなど屈指の伝統と実績を誇る市邨が圧倒的有利だった。
一方の旭丘は全国出場のキャリアもなく、高校からハンドボールを始めた選手が大半を占めるというチーム編成で名北地区予選も3位での県大会進出。ハンドボールより愛知県の公立№1の進学校として名が通っている旭丘がここまでの進撃を予想する声は多くなかった。
伝統校に競り勝って初進出
試合は25分過ぎからの3連続得点もあって市邨が14-12とリードして前半を折り返したのに対し、後半に入って旭丘が猛反撃に転じ、5分過ぎの井桁の得点を皮切りに福島、浦野の連打、そして再び井桁のシュートが決まって13分までに一気の5連取で17-14と試合をひっくり返した。
しかし、さすが市邨も地力がある。このあと1点ずつ取り合った15分過ぎから熊崎らの4連取で20分19-18と逆転に成功した。
終盤に差しかかった場面での連続失点は痛い。ところが19分に旭丘がタイムアウトを取った場面で「選手たちの表情を見て気持ちが切れていないことに手応えを感じた」という竹田直弘監督(筑波大卒)が「プランどおり戦えているし、ここからが勝負だ!」と檄を飛ばすと、それに呼応した旭丘セブンの目の輝きがいっそう増した。
そして、すぐに福島、吉富の連打で再逆転し、退場ペナルティで同点とされたものの、そのあとのディフェンスをがんばって浦野のミドルシュートで24分21-20と先行。24分に同点に並ばれながら左腕サイド・荒木のループシュートによる22点目のゴールが決まり、これが決勝点となって旭丘の勝利が決まった。
1点リードしてからの残り4分あまりはGK山﨑を中心に懸命なディフェンスを展開した旭丘が1点を守り切り、歓喜のフィナーレへとなだれ込んだ。
プランどおりの戦いができた!
「実力的には相手が一枚も二枚も上でしたが、しっかり研究して臨んだことが勝利に結びついたと思います。勝つとしたらこのパターンというプランどおりの試合ができました」と満面の笑みを浮かべた竹田監督。
そのゲームプランについてもう少し突っ込んで聞いてみると、すぐによどみない答えが返ってきた。
「やはり相手の長所をいかに出させないかようにするかを念頭に置いて戦いました。一番こわかったのがミスからの速攻に持ち込まれる展開。相手の速攻スピードはかなりのものでしたから、速攻の失点が多くなったら勝ち目はなくなるので、セットオフェンスでどれだけ点が取れるかが勝負と踏んでいました。
残り10分あたりで逆転されたものの、まだ出していない攻撃パターンもいくつかあったので、作戦タイムではそんなことを伝えました」
「深く考える」がストロングポイント
センバツ本大会へストレートインできるのは愛知県だけ。100校以上のチーム登録数を擁する「愛知枠」の特権があるからだ。
そんな中、全国一の激戦区であり、過去に市邨の2回を含む9回のセンバツ優勝に輝いている王国・愛知県の頂点に公立の進学校が立った価値は極めて高いと言えた。
私学の強豪チームに比べると環境や経験者の数で見劣りするのは否めなかった。そこで「物事を深く考えられること」をチームのストロングポイントにして戦いに臨んだ竹田監督と旭丘セブンだった。
毎日変わる多彩な練習メニューは、なぜこの練習が必要なのか、しっかり理解した上で取り組めるよう工夫がなされていた。たとえばトレーニングは選手1人ひとりに担当する分野が割り振られており、担当者が理論や方法論などを勉強しながら必要と判断したものを実践していくのが旭丘スタイルだ。
最近のスポーツや教育のシーンで多く実践されているボトムアップやアクティブラーニングの要素を取り入れながらも、あくまで選手だけの主体とはせず、竹田監督自身も最新のハンドボール理論や指導法を勉強しながら全体メニューが組み上げられていった。
「つねに頭の中で選択肢の負荷をかけ、自分たちでできる工夫を求めています」と竹田監督が話すとおり、勝負の行方を左右する大事な局面でも、ベンチの考えに選手たちの判断力や行動力がミックスされ、しっかり意思統一された試合運びが強みになっていた。
旭丘高について簡単にご紹介すると、普通科と美術科が設置されており、ともに県トップレベル。「正義を重んぜよ、運動を愛せよ、徹底を期せよ」の校訓のもと、自主・自律の精神を養う学校方針で、多くの進学校が受験に特化したカリキュラムで学習を進めるのに対して、「全人教育」として、文系理系問わず、すべての科目を必修としている。制服は存在するが、私服登校が黙認されているなど特色豊かだ。
「自主・自律」をモットーに!
そんな中でハンドボール部は、経験者は学年に1人いれば良い方で高校からハンドボールを始める選手が圧倒的に多い。
練習時間は15:20から3時間程度。平日はグラウンドのコート、男女で1面を使用。学校の中でも練習時間が長く「ハードな部活」と言われているが、課外活動に全力で取り組み、学習だけでなく人間性を高めようというムードのもとで活気あふれる練習を積み重ねてきた。
そうしたことから中学までスポーツに打ち込んできた選手が「一生懸命に本気で勝ちをめざすチーム」であることに惹かれて入部するケースが多いという。
女子部の前に、古くは男子部が1950年の第1回全日本高校選手権(初戦敗退)に出場しており、2013年にはセンバツ初出場で初勝利をマークした。 その時の顧問が疋田雅己先生(筑波大卒、現天白高ハンドボール部顧問)で、前任の天白高時代に女子を2回センバツ出場に導いた竹田監督が2016年度より旭丘に赴任し、疋田前監督が築いた伝統をベースに新たな歴史を刻み込んだ。
「なかなか1年単位で結果は出るものではありません。15年、16年と築いてきた長い伝統のおかげです。疋田先生が今回の優勝をすごく評価していただけたのがうれしかったです」と感謝の気持ちを口にした竹田監督だ。
余談になるが、野球部も前進の愛知一中時代に1917(大正4)年の第3回全国中等学校優勝野球大会で優勝している古豪。今年度、野球部も県大会ベスト16進出の大健闘で21世紀枠の愛知県推薦校候補にあがった。
現在の女子部は、選手10人(2年生7人、1年生3人)。経験者は3人でJOC愛知選抜に選ばれていた選手であり、推薦入試での合格者だ。
昨シーズンは新人戦、総体ともに県4位。3年生が3人しかいない中で1シーズン経験を積んだ2年生が活躍して今回の結果につながった
チームの軸となるエースの浦野、キャプテン井桁を中心に戦い、球歴は高校からだが、主力の福島、荒木、吉富、山﨑らが努力を重ね、日替わりで活躍したことでチームが勢いづいた。
100校の思いを背負って戦いたい!
2月の東海大会は、四日市商(三重)に24-23と1点差で競り勝ったが、決勝で飛騨高山(岐阜)には20-32と大敗した。
竹田監督は「任せる部分が多すぎたのが反省点です。彼女らと自身の課題を確認しながら次に臨みます」と言い、「ほとんどの選手が全国大会は初めてのこと。しっかり地に足をつけて自分たちのやってきたことをしっかりやりたい。愛知の代表というプライドを持ち、負けたチーム100校の思いを背負って戦います。出場するからには結果を求めたいですね」と24日からの春舞台本番に向けてきっぱり語った。
3月25日の埼玉栄(埼玉)との試合が全国デビュー戦。旭丘セブンの「深く考える」プレーが上位進出のストロングポイントになるか、おおいに楽しみだ。
OGからのメッセージ
最後に旭丘高女子ハンドボール部OGの衣川紗菜さん(早大ハンドボール部)がFacebookにアップした感動のメッセージを紹介しよう。自主・自律の旭丘ハンドボールを適格かつ愛情込めて語っている。
『母校である旭丘高校の女子ハンドボール部が、愛知県大会で初優勝、全国選抜大会初出場を決めました。
経験者は1学年1人いれば良い方、コートは男女で1面、練習は基本グラウンド。つねに練習を見られる顧問は男女で1人。学業との両立も大変です。とても良い環境とは言えません。
私の3つ上先輩の時の男子部が63年ぶりに全国大会に出場、初勝利を挙げました。それに憧れ、私も旭丘で全国大会へ行きたいと、他の強豪校ではなく、旭丘への進学を決めました。
全国を目指せると言われながら、怪我に悩まされ組み合わせに恵まれず、実力も伴っていなかったのでしょう、一度県ベスト4に入れただけでした。それでも、そんな私たちをみてハンド部に入りたいと言って入部してくれた後輩たちがいて、顧問が変わり、様々な変化がありながらも、昨年のチームも新人戦、総体と県でベスト4に入り続け、今年のチームがついにやってくれました。
真っ暗になっても一番遅くまで練習しているのはハンド部で、塾や一部の保護者には何のためにそんなに頑張るのかと言われます。それでも、2年と少ししかハンドボールをプレーしない初心者の子も皆、泥だらけになってがむしゃらに努力するんです。
私が入部する前には県大会に出られない時代もあったそうです。どんな時でもチームの歴史を繋いできてくれた先輩方がいたから、今回の結果があると私は思っています。これまでの先輩方の、後輩の皆の努力が報われて、本当に嬉しいです。
そして、私たちの目標を、夢を叶えてくれてありがとう。東海、全国大会での活躍に期待しています!
偉そうに長々と書いてしまいました。私もまだ現役ですので負けじと、関東で頑張りたいと思います!
最後に、常連校ではない公立高校が全国大会へ出るのはとても大変なことだと思います。どのような形になるかわかりませんが、もし母校を応援してくれる方がいらっしゃいましたら、支援していただけるとOGとしても幸いです』