「30秒ルール」が適用されたラストシーン

大きく明暗分けた「30秒ルール」

試合終了間際の「30秒ルール」は把握していたし、実際の試合で目にしたことも2、3度ほどありますが、会場にいたのは久しぶりのハンドボール観戦だったり、ハンドボールビギナーの方も多かったことから、なにがなんだかわからずに「もやもやした終わり方」と思われた方が大半だったのではないでしょうか?
実際に私もそんな声をたくさん聞きました。

また、オランダ・Wester選手からのGKスローをブロックしたスペイン・Hernandez選手の足がゴールエリア内に入っていたことによる罰則という見解もあり、何度もそのシーンの動画を見返したものの、そうは見えない感じだったので、ずっと割り切れない思いでいました。

ようやく翌日夕方になって、ラスト30秒を切ってから「3mの距離を確保せず、相手にスローをさせなかった場合」は失格及び7mスローが与えられるというFacebookの書き込みを目にし、さらにGKスローは、3mの距離をとる必要がない代わりに「DF側がゴールエリア内でブロックするなどしてスローの邪魔をする」と今回の反則の適応になることを知り、ようやく腑に落ちました。

ゴールエリア内のブロックが反則に

また、GKからのボールがライン(6m)の上空を通過すると「スローが完了する」という解説もありました。今回の場合は、ボールがゴールラインを通過する前にHernandez選手がスローをブロックしたことによる反則ということでした。
そう、6人制バレーボールでいうオーバーネットのブロックだったわけです。
真上にジャンプして手を上げていたら笛は鳴らなかったでしょう。

そうして改めて動画を見てみると、Hernandez選手の両手は確かにゴールエリア内に入っている感じで、レフェリーがその動作を誰よりも確認できる絶好の位置にいてジャッジしていたことがわかります。
Hernandez選手は執拗に抗議したものの、スペインベンチがあっさりと引き下がったのは、その位置取りでの信念に基づいたジャッジであること、そして世界のトップレフェリーとして定評を得ていたフランスペアを普段から信頼、リスペクトしていたからではなかったでしょうか。

的確にジャッジしたフランスペア

私的には、試合をおもしろく、楽しく見たい観戦者の立場から、あまりに目立ちすぎるレフェリーは好きではなく、あのジャッジが下された瞬間には「延長戦が見たかった」「観客の楽しみを奪われた!」と不満の方が先に立ちましたが、こうして世界最高峰を決める最後の最後で"運命の瞬間"をきっちりさばけるフランスペアに脱帽せざるを得ませんでした。

Twitterで日比敦史さんの詳しい解説がありました。こちらで納得できますよ!

記憶が蘇る2003年オリンピック予選

この「30秒ルール」は2018年から施行されたもので、試合終了直前のあまりにも「スポーツマンシップに反するプレー」をなくすためのものということです。

そこで記憶が蘇るのは2003年9月に神戸市で開催されたアテネオリンピック・アジア男子予選でのシーン。大会は日本のほか韓国、中国、台湾による1回総当たりリーグで行われ、大会2日目、事実上の代表決定戦となった日本と韓国との試合はスタートから1点を争う大接戦となりました。

そして、 22ー22の同点で迎えたラスト3秒から日本にフリースローが与えられ、この一投を託されたのは若きエース宮﨑大輔選手(当時日体大2年生)でした。
このフリースローがゴールインとなれば日本のオリンピック出場が限りなく濃厚となるところでした。

2003年のオリンピック予選を報じたスポーツイベント・ハンドボール11月号

「残り3秒の反則」に消えた五輪の夢

しかし、宮﨑選手は満足ゆくシュートを打つことができませんでした。レフェリーの笛が鳴るやペク・ウォンチョル選手(元大同特殊鋼)が、立ち並んでいた日本選手の壁を縫うようにして宮﨑選手に飛びかかり、それでバランス崩した宮﨑選手は垂直にジャンプができず、大きな願いを込めたシュートは力なく韓国DFの枝に阻まれたのでした。

日本と韓国が引き分けたことにより、得失点差で上回る韓国がオリンピック切符を獲得。この反則によりペク選手は残る試合を出場できないペナルティを受けますが、彼と韓国にとっては、「日本戦に負けないこと」がアテネ代表権をものにする最大のミッションでした。
彼のフェアプレー云々を問う声もありましたが、オリンピック出場がかかったあの場面で、ためらうことなくアタックをかけたペク選手に、百戦錬磨のプロ魂をまざまざと見せつけられたのです。

今ならペク選手の反則はレッドカード、そして日本に7mスローが与えられ、日本のアテネオリンピック出場が限りなく濃厚となったはずでした。
もっとも当時に「30秒ルール」があったなら、ペク選手はそんなアタックはしなかったでしょうが、、、

広くアナウンスしてほしい「30秒ルール」

この際なので、審判界はこの「30秒ルール」を広くアナウンスしてみてはどうでしょう? 
退場を伴うようなファールの場合はどうなるのか。宮城インカレ男子決勝でもそんな場面もありました。

また、審判やチームだけが分かっても観客不在になってほしくありません。
国内の大会ではTDからの場内説明があってもいいと思います。試合は観客、ファンも一緒になって作り上げるべきものなのだから。
1万人規模の大観衆による熱さがこの好ゲームを導いたのは明らかだし、いっそうそんな想いを強くした世界女子選手権ファイナルでした。

素晴らしかった世界最高峰の大会、そしてフィナーレ!