2018春の注目チーム!-第1弾

「球春スローオフ!」と言えば、春の高校センバツが一番ぴったりするフレーズです。このHANDBALL@STATIONの看板コーナーである「ハンドボール愛!Journal」の5回目は、2018春の注目チームをクローズアップします。前号から少し間が開いたお詫びといってはなんですが、Vol.5とVol.6を連続してのご紹介となります。

まずはセンバツ初出場を果たした島根県男子の江津高のリポートをどうぞご覧ください! 近くアップする次回の注目チームもこうご期待です。

中国予選準決勝の逆転勝利でセンバツ初出場が決まった!

江津が島根の歴史を塗り替えた!

 2月3、4日に山口県周南市で行われた第41回全国高校選抜大会(以下センバツ)の中国予選会で“江津(ごうつ)旋風”が吹き荒れた。島根男子の江津が山口の下松工を延長後の7mスローコンテストで下し、準決勝では終了直前に逆転して岡山の総社を退けるという劇的勝利で決勝進出を果たしたのだ。
いずれも中国地区を代表する伝統のチームを連破して初のセンバツ切符獲得。失礼を承知で言えば「ハンドボールの後進圏」と言われ続けた島根県勢のイメージを覆し、このセンバツ本大会や夏のインターハイ、さらには来年以降におおいに期待がふくらむ快進撃だった。

中国地区予選は各県からの2代表、計10チームによるトーナメント方式で上位3チームにセンバツ出場権が与えられるシステムで、たとえ1位代表でも1、2回戦で敗退した時点で本大会への道が閉ざされてしまう。
1位代表チームは3回負けても最後に1勝すれば出場権が得られる関東女子などと比べると大きな格差があり、山口の2チームが圧倒的優勢だったこれまでの中国予選は、山口以外の実力派が「不運な組み合わせ」に何度も泣く非情な歴史を繰り返してきた。

そして今大会、1回戦シードの江津が初戦で顔を合わせたのが下松工。2位代表とはいえ全国優勝キャリアもある名門校を相手にしなければならない江津にとって「不運な組合せ」と言わざるをえなかった。

「不運な組み合わせ」を打破!

ところがどうだ! この試合、江津は前半18分5-6の1点ビハインドから島田、井上、多岐らの活躍で6連続ゴールを奪い、そのまま勢いをキープして12-7と5点リードで前半を折り返した。
後半に入ると江津の個人技に対してディフェンスを修正した下松工が反撃に転じ、前半のリードがじわじわと縮まって残り3分で3点差。それでも逃げ切るかに思われたが、江津に2人の退場者が出て残り7秒で21-21と並ばれ、延長に持ち込まれた。
そして、追う者の強みとばかりに下松工が延長前半で2点を先行、後半も3分を経過して24-26と江津の劣勢が続いた。山口勢の厚い壁の前に万事休したかに見えた。

しかし、ここから江津セブンが驚異の粘りを見せた。島田の一打で1点差に迫ったあと、渡邊の同点ゴールが残り5秒に決まり、勝負の行方は7mスローコンテストに委ねられた。
ここで江津に大ヒーローが現れた。1年生GKの五十嵐だ。
すでにこの試合で2本の7mを止めていた自信をみなぎらせた五十嵐は、2本目に次いで5本目もシャットアウト! その瞬間、最後の一投を待たずに江津の勝利が決まった。]

7mコンテストの末に下松工に勝利した瞬間

劇的連勝でセンバツ切符獲得

さらに江津の進撃は続いた。準決勝の総社戦は、序盤から接戦が続く中、湯浅、井上らの活躍で11-10と先行して前半をターン。
後半に入ると下松工戦と同様に、江津の攻撃システムに対応した総社の前に得点ペースが鈍り、8分過ぎから相手の集中打を浴び、15分13-18、19分15-19、22分16-20と苦しい展開が続いた。
重苦しいムードが漂っていたが、ここから江津が猛反撃に転じた。
ファインセーブを連発したGK五十嵐からのロングスロー速攻が次々と決まり、3点、2点と差を詰め、そして28分52秒、島田のゴールで20-20の同点に追いついた。

コートサイドの江津応援団は総立ちとなり、大声を上げて江津セブンを勇気づけた。
このあとの総社の攻撃をしのいだ江津は、残り12秒から再び島田の速攻で21-20と勝ち越し。そして、同点を狙った総社のノータイムフリースローが外れると、選手やスタッフ、応援団も誰彼なしに手を取り合り、抱き合いながら歓びを爆発させ、何人もが感激の涙を流した。

スタンドから熱い声援を送り続けた江津OBの森脇亮祐さん(山口県岩国市在住)は「最後の場面は信じられないプレーばかり。こいつらこんなに上手いのかと驚きの連続でした」と興奮気味に語り、「選手や保護者たちはピンと来ないでしょうが、島根の長い屈辱の歴史を知り、コンプレックスの塊みたいだった我々としては偉業以外のなにものでもありません。本当にうれしかったです」と言葉を続けた。

センバツ出場を呼び込んだ島田の逆転ゴール

決勝に出たい一心で総力結集

島根県がセンバツに代表校を送り出すのは、全都道府県の参加があった30回の記念大会(飯南が出場)を除けば第6回大会の38年前の松江工までさかのぼらなければならなかった。
それも当時の中国予選は各県1チームによるリーグ戦で、松江工は山口の岩国工に次ぐ第2代表。現在のような各県2チームが出場する予選だったら結果は変わっていた可能性が高い。
ましてやトーナメントでの決勝進出となると、70年もの年月を経た中国地区の各大会でも今回が初めて。まさに江津セブンが島根ハンドボールの歴史を塗り替えた瞬間だった。

「下松工戦もうれしかったけれど、総社に勝った時の方が感激が大きかったですね。決勝で岩国工と戦いたいという一心でしたから思わず涙がにじんできました」と感慨深く語ったのはベテランの奥川恵コーチ(65才、日体大卒)。
1979(昭和54)年に江津高に赴任して創部した奥川さんは18年間に渡ってチーム指導にあたり、江津ハンドボールの礎を築いた。 江津高を異動で離れてからは歴任した学校の管理職を務めるなどしてハンドボールとは距離を置いていたが、一昨年から江津高の非常勤講師になってから指導現場にカムバックし、外部コーチとして顧問の小竹洋介監督をフォローしながら実戦指揮にあたってきた。

何度か低迷期があったこれまでの江津だが、HC江津として小学生から中学生へと積み上げていく地域に根ざしたハンドボール活動が4、5年あたり前から軌道に乗り始め、2015年の春中(春の全国中学生選手権)に出場したHC江津が前年に続いて初戦突破を果たし、そのメンバーが主体となった青陵中(ハンドボールの部活はなし)が、全中ベスト4の山口・岩国中を中国予選であと一歩のところまで追いつめるなど存在感をアピールした。

地域に根差した活動が花開く

島田、井上、渡邊、多岐らがその時のメンバーで、さらに五十嵐、湯浅、槇岡ら野球やバスケットボールなどから転向したポテンシャルの高いメンバーが加わり、チームがグンと底上げされた。 河野裕光さん、益田淳さん、山本孝志さんらOBを中心とする20人近くのスタッフが小、中学生のチーム指導に関わってきたことも着実な成果につながり、とくに湧永製薬のGKとして日本リーグキャリアを持つ河野さんは江津市役所に勤めるかたわら、アンダー16やNTSの中国ブロックスタッフを経て、いまでNTAのGKコーチとして全国の有望選手を指導する立場。中学生をメインにしながらも、週2回は江津高と合同練習をすることから、今大会の立役者となったGK五十嵐の指導にもあたり、それがセンセーショナルな活躍につながった。

また、抜群の球技センスを誇るセンター多岐の父親や、五十嵐とともに陸上出身の植田の母親が江津ハンドボール部出身者というのも、奥川さんが「素人を集めてチーム作りをしていた昔とは大きな違いがある」と言うように、江津という故郷、地域が背景となる環境がチームの背中を押した。
ほとんどの部員が進学希望でその半分が国立大をめざしているなど勉強と部活をがんばるカラーが伝統になり、大学でハンドボールを続ける選手が目立ってきたのもチームに活力を与えている。

新たな歴史作りへ挑戦あるのみ

決勝戦は岩国工高に11-37と大差で敗れたが、連日タフな試合が続いて体力を消耗し、右バックの井上が体調不良をおしての出場だったこともあり、伝統校の底力をまざまざと見せつけられた恰好だった。
それでも岩国工とファイナルで対戦できたことは今後の成長に弾みがつくはず。

センバツ本大会の初戦で当たる大分は江津にとって縁の深い相手。奥川さんが「(大分監督の)冨松先生は1981年の滋賀国体前に、徳山(周南市)で練習試合をお願いして以来、仲良くさせていただいている」と言えば、長男・透也くんが大分セブンの一員に名を連ね、アンダー16で指導していた大分・GK野上を「有望株でなかなか手強いですね」と苦笑いしながら警戒する河野さんだ。

「九州1位の強敵の胸に飛び込んでいって最後まで諦めない試合をしたいです。ハンドボールをやってきた経験年数は大分の選手と変わらないはずですから。島根県のハンドボール関係者、下松工高、そしてお世話になった学校すべてに恩返しするつもりで残りの1秒まで戦い抜きたいです」と奥川さんはきっぱり。

チームの新たな歴史を作り、インターハイへとつなげたいとする思いは誰もが同じ。江津セブンの「挑戦の春」が刻一刻と近づいている――。

※この号の写真と動画はすべてチーム提供です。