Vol.12 日本中のGKを守護神に!

いま学生ハンドボール界で最も自己アピールしていると言えば、升澤圭一朗くんをおいてほかにない。慶應義塾大男子ハンドボール部(関東学生2部)の4年生だ。

 とにかく会って話してみると、その熱さにどんどん引き込まれ、「若いっていいな!」と思うとともに「もっとガンバレ! 応援するぜ!」と言いたくなる意欲に満ちあふれた若者だ。

日本代表の強化はGKから
GKの強化はますトレから

 升澤くんが自身で編み出した『ますトレ』がツイッターなどSNSで話題を呼んでいる。
 なぜ『ますトレ』を思いつき、展開するようになったのか?
 それは2017年1月のフランスで開催された世界選手権がきっかけだったという。

   “I think that the difference was in our goalkeepers’ performance.”--「この試合は(ロシアと日本との)GKのパフォーマンスの差だった」
 予選ラウンド初戦の日本-ロシア戦を報じた大会HPに、そんなロシア代表監督のコメントが紹介されていた。
 試合は後半15分過ぎからロシアの攻勢に押しまくられ、29-39と日本の完敗に終わったゲームだった。

 「はっきりGKの差だって書かれていたのがとてもショックでした。そんな概念をなんとか変えたいと思ったんです。
 日本のGKはもっと強くならなければならないし、それにはCPとGKが同じ練習をしていたらダメ。GK独自のトレーニングをするべきだと考えました。
ある意味、日本代表の強化はGKからと思っています。日本はGKが弱いと言われるのが、なんとも残念だし、生意気に聞こえるでしょうが、自分でそれが変えられるならと思い立ちました。
 GKのトレーニングは楽しいし、必ずうまくなれます。そこを変えていきたいと思って『ますトレ』の理念を抱き、それを具体化していきました」

ますトレ47都道府県行脚スタートへ

そこで升澤くんは大きなテーマを掲げた。「ますトレ47都道府県行脚で日本中のGKを守護神にしよう」というのだ。

「これまで僕は小学生からハンドボールを続けてきて守護神などと呼ばれ、とても楽しくハンドボールができました。それでもみんな同じように守護神になるのは難しいでしょう。
GKの技術はもちろん、GKの持つべきメンタリティを育んだりと、そんなGKの大事なことを日本中に伝えていきながら、ただのGKではなく、チームの守護神になるための手助けをしていきたいんです」

升澤くんのGKキャリアは必ずしも順風満帆なものではなく、大きな挫折も経験したという。

「日本のトップレベルで活躍できるGKになる目標を抱いていた僕ですが、代表レベルはU-16まででユースやジュニア代表になる夢はかないませんでした。大げさでもなく僕のハンドボール人生最大の挫折だと思っています。
結局はパフォーマンスとか能力で負けたわけではなく、僕の身長が小さかった(177㎝)からと思っています。
でも、どちらかというと、代表活動へのレールが敷かれたNTS(ナショナルトレーニングシステム)は僕以上のサイズがあるGKが多いので、身体的に優れたGKへの画一的な教え方だと感じていたし、一方で僕みたいに身長が小さく、違うスタイルのGKもたくさんいるわけです。NTSのレベルに達しない選手にもそれぞれに適したトレーニングがあっていいですよね」

12月1、2日の札幌を手始めに

「次になにをするのか、ですが、12月から2月上旬まで全国行脚のプログラムをスタートします。
そこでは小学生から大学生まで指導しますが、トレーニングばかりでなく講演も盛り込んでいく計画です。今年6月に銘苅淳(北陸電力所属)さんが埼玉の三郷でやった、あのようなクリニックができたらと考えています。
トレーニングも大事ですが、1日で180度変えることはできません。まずは意識を変えて継続してトレーニングしてもらいたいという狙いで、自分の生き様なども伝えていけたらとも考えています」

『ますトレ』を系統立て、実践していこうとする上で役立ったのは大学で習った『PCCP』だったという。
それは
Philosophy(哲学)
Concept(テーマ)
Contents(コンテンツ)
Program(具体的な内容)
の頭文字。

全国行脚の手始めとなる12月1、2日の札幌ではストリートハンドボールの展開も視野に入れている。
目標だった日本リーグへの夢を断ち切り、選手としてのキャリアにピリオドを打つことにためらいはない。「守護神養成の“伝道師”になる」決意を新たにしての出発だ。
また、このプロジェクトを推進していくための資金はクラウドファンディングで調達したいとして近日中にリリースする予定。
到達目標金額は100万円で、それで得た資金は交通費、宿泊費に充てるという。

心強いメディアらの協力

今後はさらにメディア露出にも力を入れたいとしており、月刊誌スポーツイベント・ハンドボールをはじめ、若い層に人気のあるウェブサイトのハンドボールJAPANの協力が得られたほか、ハンドボールアパレルブランドのトランジスタからジャージやクラウドファンディングのリターン品のサポートを受けるのも心強い。もちろん我がHANDBALL@STATIONも応援を惜しまないつもりだ。

「とにかく理念を掲げてプロジェクトすることが大切だと思っています。それにより影響力や発言力も出てくるでしょうから。ソーシャル、マスメディアへの露出を心がけ、ハンドボールだけじゃなく、学生界でこんなやつがいるんだって示したいです」と胸を張った升澤くん。
卒業後は大手IT企業への就職が内定した。

「そんな僕の考え方を認めてもらえ、これからも重要になるIT活用のノウハウを学べるのも魅力があるのでお世話になろうと決めました。新しいもの好きで機械も好き。
仕事は営業のセクションを希望しています。仕事の内容をきちっと学ばないと営業はできませんからね。今の活動も人を集めること、つまり営業が大切だと思っているし、今後も営業の分野でがんばりたいです」

3パターンの指導を活用して

『ますトレ』で培った自己アピールは内定者を集めた懇親会のグループワークでも存分に発揮された。
会社の理念である5つのテーマから「逆算」を選んだ1分間スピーチで、上半身タンクトップ姿になり、鍛え抜いた自らの身体で逆三角形を披露して大受けしたという。

「内定者みんなの投票でダントツ1位になりました。全員が僕のことを知ってくれたと思いますよ」と笑顔をほころばせた。

これからは実際に選手のもとに足を運んでの「出張ますトレ」、選手に来てもらってGKためのトレーニング、コーチングを行う「ますトレスクール」、そして双方に参加できない選手のための「ますトレオンライン」を3本柱として活動していく計画だ。

「この3パターンの指導プラットフォームを活用することができれば「教えてほしい」「教えたい」ニーズをマッチングさせることができ、そして、その人に合った『価値』を提供できるはず。すべての人には『価値』があることを証明したいと思っています」と目を輝かせた。

最後に『ますトレ』47都道府県行脚に込める想いを聞いてみた。

「ますトレはGKトレーニングコンテンツとして、多くのハンドボーラーをはじめ、他競技のGKからも注目を浴びるようになりました。
残りの学生生活のすべてを費やして、このプロジェクトを成功させたい。
そして、日本中のGKを守護神にしてあげたいと思います」ときっぱり。

『ますトレ』47都道府県行脚のお申し込みはここから。↓https://docs.google.com/forms/d/1mpMPYwMInkhBDJOOyNa1E5EgUN_fUUr7k-MATcZF_VE/viewform?edit_requested=true

HANDBALL@STATIONも『ますトレ』とのコラボ企画を計画中。そちらもお楽しみに--。

 

升澤圭一朗 / KEIICHIRO MASUZAWA
1996年11月18日福井県生まれ。
10歳(小学4年)から地元のクラブでハンドボールを始め、北陸高校では選抜、インターハイ、国体の3大大会に出場その後は慶應義塾大学に入学し、環境情報学部でスポーツビジネスを専攻。
現在も大学でプレーしており、主将としてチームを牽引する一方で、『ますトレ』という独自のGKトレーニングコンテンツをTwitterなどのSNSで発信する活動をしている。『出張ますトレ』『ますトレスクール』『ますトレオンライン』で日本中のGKを守護神にするために指導も行っている。